『佐武と市捕物控』、私の愛した“虫プロ調”の傑作

アニメ『佐武と市捕物控』の原作はいうまでもなく、石森章太郎のマンガ。
今となってはご本人も語っている周知の事実なので、さらりと書くけど、残念な“傷”を持っている作品だ。(※1)
それは、市やんというキャラクター。
按摩で、居合の達人、さらに、仕込み杖で逆手斬り―は、勝新太郎の主演映画『座頭市シリーズ』からの借り物である。これは原作マンガ『佐武と市捕物控』が、名作と評価されればされるほどついて回る“傷”で、石森先生も終生その十字架を背負い続けられ、相当重かっただろうと拝察する。

にもかかわらず本作、アニメ『佐武と市捕物控』に“傑作”の証紙を貼るのは、ひとえに時代劇アニメとして、見事な作品だと思うからに他ならない。
その見事さについては、「WEBアニメスタイル」などのアニメ関連コンテンツや、NHKテレビ番組「100分de名著/2018年スペシャル・100分de 石ノ森章太郎」、そのムック化である「別冊NHK100分de名著/果てしなき石ノ森章太郎」の夏目房之介氏担当パート―第3章『佐武と市捕物控』における解説を観たり読んだりしてもらいたい。

―といいつつ、自分の気持ちを吐露しておく(笑)。
同番組(同書)のこのパートで語られるのは、石ノ森さんのマンガが、表現としていかに革新性に富み新機軸を開いていったかというポイントなんだけど、それと同時期に作られたアニメ『佐武と市』とのメディアを超えた互いに刺激しあうような相互関係のようなものも同時に語られる。ちょっと視点をずらせば、BSアニメ夜話・アニメ版『佐武と市捕物控』として一本が作れるほどの濃い内容で、当ブログで私が用いている「愛する虫プロ調」や「虫プロ青年マンガ部」という造語で意味させたいもの、当時の“気分”や表現・演出に込められた“熱”といったものがきちんと語られており、60年代からの古参ファンである私にとってまことに有り難く、テレビの中の夏目さんに向かって頭を下げた覚えがある。

さて、1968年の春頃だったろうか、定期購読していた「COM」に、虫プロによって『佐武と市捕物控』がTVアニメ化されるとの記事が掲載された。
その年の2月に創刊された「ビッグコミック」に連載中の、当時一番惚れ込んでいた石森章太郎の青年向け『佐武と市』を、当時一番入れ込んでいたアニメ制作プロダクション・虫プロが作る―という私にとっては夢のような企画だった。

’68年(S43)10月3日午後9時、日本初の大人視聴者を意識した時代劇アニメは始まった。

朧月夜、呼び子がなる江戸の夜、丘の上で複数の侍に囲まれる二人、「いくぜ市やん」「あいよ佐武やん」の掛け声、放り投げた御用提灯が地に落ち燃える、市の居合斬りとサブの捕縄術の短いカット割りでの紹介、続く市の逆手斬りのスローモーション、カメラがロングの映像に切り替わって台地の稜線とその上の人影〜バタバタと倒れる襲撃者達。そしてテーマ曲が始まり、タイトルロゴがイン。開始からここまでで35秒―もう少年はとり込まれてしまっていた。

特に冒頭から5秒過ぎ、二人のアップになるころには、少年マンガ調頭身からはっきりと青年マンガ調の絵に切り替わる。かっこい~!!私は痺れた。
私の愛する虫プロ調が、もう一段青年マンガっぽくなって、帰ってきたのだった。

衝撃だったのが第2話「三匹の狂犬」(※2)だった。
本編丸ごと全部、惚れちゃった絵、惚れちゃった演出の30分だったのである。

そのオープニングのスクリーンショットを掲載する。
作画:村野守美 杉野明夫 沼本晴海
演出:りんたろう 真崎・守
今だから言えるよね。なんという豪華な、なんという…

私の惚れたオープニングは、コンテが真崎・守さん、原画は村野守美さんだったのだ。
後年、それも30数年後、DVD-BOXを購入、封入されていた「佐武と市捕物控・動画解説之書」によって事実として確定するのだが、当時は、高校生のオイラが勝手に思っていただけ。
これが、私の愛する虫プロのアニメや!!―と。
この後TVアニメはおろか、“紙”のマンガの“画”の好みまでも、これが中心になってしまったのだった。

何度も書いているが、時代は青年マンガ・コミック誌の勃興期。真崎・守さんも、村野守美さんも、やがて虫プロを去り、“紙”の仕事に戻ってゆかれることになる。
17歳の青年だった私は、田舎の本屋さんの雑誌売り台の全ての漫画誌に目を通し、お二方の名前を探した。
’68年、真崎・守さんとは、『連作/地獄狼無頼伝』『連作/燃えつきた奴ら/幕末刺客行/新撰組篇』で、村野守美さんとは『佐渡流人伝』で再会、そして’69年『虎落笛』『媚薬行』いずれも途中からではあるが探し当て、愛読した。中でも、村野さんの『春雷』は脳天をぶち抜かれた作品の一つである。
以後のお二人の活躍は、ことさらの叙述は必要ないであろう。
マンガファンならなおさらのことだろうね。
(そのうち書くかもしれんけど……)

『佐武と市捕物控』モノクロ作品。30分。全52話。
制作は、大阪のMBS(毎日放送)。関東では、NETテレビ系で、1968年10月3日から1969年9月24日まで放映された。
成人層を視聴者と想定し、アニメ番組としては異例の21:00 – 21:30枠で放映されたが、半年後には19:00 – 19:30枠に変更されている。
制作は、スタジオゼロと虫プロダクションと東映動画の3社(内、虫プロ制作は23話)。

私の愛する虫プロ調が、三度私を痺れさせるのはそれから2年後のこと、『あしたのジョー』によってさらに増幅していったのだった…。

~「愛する虫プロ調・後編」~ 了

※1:子母澤寛の随筆集「ふところ手帖」所収の短編『座頭市物語』に登場する、盲目の居合の達人でヤクザ者が市。その原作を元に、主人公を“流れ者の按摩”に設定し、大映映画が作り上げたのが『座頭市シリーズ』。仕込み杖と逆手斬りは、主演の勝新太郎のアイデアとされる。

※2:私の持っているDVD BOXのブックレットには、「本放送時、キー局のMBSでは『反逆者』を第1話、『三匹の狂犬』を第2話として放送したが、NETでは逆に『三匹の狂犬』を第1話、『反逆者』を第2話として放送するという異例の措置が執られた。この事実は近年になって知られ始めたものであるため、現在でも『三匹の狂犬』を第1話と記載する資料が多い」とある。このことから、ぶつくさ堂主人は関西人であることがわかる(笑)

※下の図版説明:DVDBOXの付録「佐武と市捕物控・動画解説之書」の表紙裏に載っていた’68年10月3日付「毎日中学生新聞」に掲載された放映開始予告。タイトル文字の下に添えられた“連続テレビ劇画”というコピーが、当時のマンガ情況と本作のコンセプトをよく物語っている。