1964年の12月か、それとも65年の1月か、なにぶん60年近く前のことなので、明確に月日を記せない、―ではあるけれどビビっときたイメージは鮮烈に記憶に残っている。―というか、むしろ美化・補強されていたりして…
その時私は中学1年生、散髪屋さんでの順番待ち時間に手に取った「少年キング」で、少年時代に最も熱中した作品と邂逅した。
そう、『サイボーグ009』と出会ったのである。
その時、島村ジョーと00ナンバーの仲間達、そしてギルモア博士は日本に滞在し、黒い幽霊団の放った刺客、0010、0011、0012、0013と戦っていた。―むろん作品中の話やけど。
13歳の少年を虜にし、その頭のわずかな記憶領域をパンパンにしたのは、0013との戦闘シーン。009には残像と映る、高速で移動する0013のストロボ・アクションのような表現(※1)、目が不自由なため、高速移動する009と0013の移動音をたよりに、電流メス(今でいえば電磁メス?)内蔵の仕込み杖で、誤って0013を斬ってしまうマッサージ師のような男。(※2)
ハイスピード空間の表現は黒ベタの背景に同じポーズが連続して流れるように続く“分解写真”の0013、一番手前の残像の背中に走る衝撃、―と一瞬残像効果が消え、ノーマル空間=通常の背景有りのコマになり、0013が斬られた刹那の絵、そして倒れる0013……少年は、これに、痺れた。
そして少年は、キングの購読を開始した。
同時期の、翌月か翌々月か、同じ散髪屋さんの待ち時間で『サイボーグ戦士』と題する長編読み切りが載った「別冊少年キング」を発見した。
それは、『009』の物語の基本設定と、001・イワンから008・ピュンマまでの00ナンバー達の改造されるまでのいきさつを、作者の映画趣味などがてんこ盛りでまとめられた40頁だった。
今でいえば、テンポのよいアクション映画のアバンタイトルのような演出で一気に紹介してしまうその演出に、うまい!すごい!…少年は、“章太郎フリーク”のさらなる深みに沈みこんでいった。
そう、長い長い物語の冒頭、週刊連載の第一回・少年鑑別所集団脱走のシーンに接続される、今では単行本の「プロローグ」として組み込まれているあのブロックです。
少年は、【「別冊少年キング」1965年新年創刊号】とあるのをしっかりと、深~く記憶した。
『サイボーグ009』のキング連載は、’65年9月・第39号、単行本の章立てでいえば『ミュートス・サイボーグ編』で終わった。
「突然終わった」というのが正直な心根。猛烈なロスが襲ったが、田舎の少年は歯ぎしりする他なかった。中学2年生の秋だった。
そして少年は、キングの購読を停止した。
重ねていっておこう―
少年は、【「別冊少年キング」1965年新年創刊号】とあるのをしっかりと、深~く記憶した。
~ 私の 009・思い出話・下 ~ に続く
※1:ストロボ・アクションの表現…市川雷蔵主演の『眠狂四郎』シリーズで取り入れられた円月殺法の表現。第四作『眠狂四郎女妖剣』より使われた。剣が弧を描く時パラパラとコマ送りのように見えるアレ。市川雷蔵は『眠狂四郎』をはじめ『陸軍中野学校』や『忍びの者』などのシリーズをもつ、“雷様”と呼ばれ愛された俳優。“座頭市”の勝新太郎とともに大映を支えた大スター。
※2:マッサージ師のような男…名は、レントゲン。もうこれはアレでしょ。この頃、石森さんは相当“座頭市”に入れ込んでいたようで、『009』のこの男、『新・黒い風』では謎の按摩・居合斬り集団の「闇一族」、最後は言わずもがなの『佐武と市捕物控』の松の市、ずばり“座頭市”やね。