_上の巻よりのつづき
そろそろ、前回末尾に記した「ある人」について書かねばならないね。
その人とは、霧の遁兵衛=牧冬吉さん。
筆者は、主人公の隠密剣士・秋草新太郎より、「秋草さま~ッ」と叫びつつ登場する秋草の補佐役、公儀隠密の伊賀忍者・霧の遁兵衛の方がお気に入りだった。
前段で述べたように『隠密剣士』は忍者でウケたシリーズ、小生などは“忍者刀”と“逆手切り”と“手裏剣”のアクションが楽しみで同番組をみていたわけだから、まあ当然といえば当然なんですね。ちなみに、番組の売り物の一つ、忍者刀の逆手持ちは、牧冬吉さんの提案だそう。
牧さんは、宣弘社制作の『豹の眼』の敵役「殺し屋ジョー」役でドラマデビュー。続けて『快傑ハリマオ』(※5)でも「キャプテンK・K」(第1部)「片足ブラック」(第3部)「オスカ」(第5部)と敵役を三つ演じ、63年に『隠密剣士』第二部でも敵役「柘植の黒兵衛」で出演。敵役だったが、裏切って秋草に味方する黒兵衛は人気を集め、第三部からは準主役の「霧の遁兵衛」に抜擢された。
66年(S41)には、白土三平の『ワタリ』をもとに、隠密剣士のスタッフが作った『大忍術映画ワタリ』(シナリオ:伊上勝と西村俊介、監督:船床定男)に出演、主人公ワタリをサポートする爺、白土作品ではおなじみキャラ「四貫目」に扮していた。
原作ファンの私には、題名だけが白土関連の、大犮柳太朗が珍しく敵役ででているだけの、特撮もいまいちの「牧さんがでている映画」でしかなかったが、興行的にはヒットしたようである。(※6)
67年には、子供向けテレビ特撮時代劇『仮面の忍者 赤影』(1967年4月5日 – 1968年3月27日まで)に「白影」役で出演、こちらでも人気を得、以後『柔道一直線』や『変身忍者 嵐』など、子供向けドラマの名脇役として永く活躍した方。
一般の時代劇作品も多く、『大岡越前』『水戸黄門』『必殺シリーズ』『暴れん坊将軍』といった長寿シリーズにも何度も出演されている。
今から30年以上前―息子が5歳ぐらいの頃、何度目かの再放送で観たのか、アニメ版(87年~)でハマったのか、正確に覚えていないが、『赤影』に夢中になった時期があった。
どこへ行くのにも、赤影のマスクをつけ、忍者刀とおぼしきプラスティック製の刀をかつぎ、出かけていったものである。まあ、血ィは、争えんなァと思ったものだ。
私自身は十分すぎる大人だったので、同調はできなかったが、「白影」に出演していた牧さんを思い出し、さらに遡って、霧の遁兵衛に想いを馳せたものである。
世界的ヒーロー“Ninja”の基本イメージを生み出した、伊上勝さん・西村俊一さん、そして情熱的にヒーローものを作り続けてくれた宣弘社プロダクションの皆さんに乾杯!!!
_なのである。
※5:ハリマオの勝木敏之さんは、第1部(62年)で 松前藩士・鬼場陣十郎役、第3部(63年)で 伊賀忍者の頭領・百々地源九郎役で出演している。
※6:「夏休み、マンガ週間!」と銘打って、『サイボーグ009』(アニメーション作品)と同時上映されたので、単独での成績は測りにくいけれど、あの「東映まんがまつり」が翌年から始まることを思えば、やはり興行としては成功したのだろうね。