自主制作時代劇 日本アカデミー賞に輝く

3月17日だったか、ほっこりするニュースをWeb上で見つけた。
日本アカデミー賞最優秀作品賞に『侍タイムスリッパー』が選ばれたというニュースだ。

自主制作映画、それも時代劇での受賞!
監督は、車を売って製作費に当て、貯金残高7000円なったことも!(※1)

一読して脳内に残ったのはそんな情報だったが、よ~く読むと、完全な時代劇ではなくて、侍が現在にタイムスリップしてくるいわば “変則”時代劇(?)のようだった。全編時代劇…製作費を考えたら到底作れないものね。

上の二つだけでも、私には十二分に「ええ話」やねんけど、もっと情報が欲しいと思っていたら、NHK BS がやってくれた。『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』シリーズ「『侍タイムスリッパー』超低予算時代劇はこうして誕生した」がそれ。 3月24日放送でした。
小生、映画自体は未鑑賞、だから作品の出来不出来は云々できないけれど、この番組で『侍タイムスリッパー』製作に関わった皆さんの映画愛・時代劇愛は十分に感じることがデケヤシタ。

撮影所、なるほど現在にタイムスリップした侍が生計をたてるとしたら、ここしかないといえる最適の職場です。よ〜考えはったな、撮影所の話やったら、現代劇も時代劇も撮影できますやん!!と大いに納得です。
で、Chapter3、「In Memory of Seizo Fukumoto」と映画のラストに出るスタッフロールの冒頭部が紹介されます。「福本清三氏を偲んで」―あの“五万回斬られた男”として有名な東映太秦の斬られ役・故 福本清三氏への献辞でした。
そうか、脚本も書いた安田監督の想い、福本さんに代表される大部屋俳優さん達を描くというのも入っていたのかと再び納得です。

映画の撮影所や大部屋俳優・斬られ役のお話は、朝ドラでは『オードリー』・『カムカムエヴリバディ』、BS NHKの単発ドラマ『スローな武士にしてくれ』、映画では『蒲田行進曲』、『太秦ライムライト』(=福本さん唯一の主演作)などで知られてはいるものの、個人名となるとそれこそ福本さん以外は、……となります。

「アナザーストーリーズ」を視聴しているうち、私の脳裏には自然と、少年・青年期にスクリーン上やブラウン管内で「あっ、またでてる」とお馴染だった脇役・斬られ役俳優さん達の顔がゆらゆらと浮かんできました。

その一番手は、福本さんのちょっと先輩かな、’50年代後半から活躍されていた東映の汐路章さん。あの『蒲田行進曲』のヤスのモデルといわれている人。
子供の頃に見ていた『若様侍捕物帳』や『新吾十番勝負』、長じてのちの『日本侠客伝』『緋牡丹博徒』『仁義なき戦い』etc etc、テレビでは、古くは『風小僧』から『素浪人花山大吉』、さらにTV時代劇安定時代の『水戸黄門』『銭形平次』『大岡越前』『暴れん坊将軍』まで、さらに『西部警察』にもでてはりました。

二番手は、大映の伊達三郎さん。
’40年代後半(スゴイ、おいらの生まれる前からやん!)から大映京都で代表的な悪役として大映全盛期を支え、大映倒産後は他社作品やTVドラマにも出演され、’80年代一杯活躍された方です。
いっつもカツシン(勝新太郎)やライゾウ(市川雷蔵)に斬られてはったけれど、私が忘れられない伊達さんは、いつもの悪役でなく『新・悪名』のラスト、朝吉親分に「われわれを守ってくれてありがとう」と外国人訛りの日本語で礼を言う、中国人系か朝鮮人系の闇市の商売人で、その一瞬の優しい表情と台詞のトーンが記憶に残っている。

そんな伊達さんの後輩が、山本一郎さん。
ヘキサ弟子丸という方の『木枯し紋次郎に出ていた人たち』というWebページに「山本一郎」のページがあります。紋次郎だけでも7回も出演してはります。わたしは第一回「川留めの水は濁った」あたりからご本人を意識し始めました。(惚れたんチャウで)
後に(多分大映倒産の後だろう)、結城市郎と改名されている。1932年生まれの結城さん、60年代から活動されて今も現役であるそうだ。(すごい!)

もう一人、現役バリバリの大部屋出身俳優さん、筆者より若い―といっても’66年生まれだから十二分におじさん俳優ではある―ドンペイさん(旧芸名:土平ドンペイ)に触れておこう。
ドンペイさんは、東映京都撮影所や京都映画撮影所で、他に仕事を持ちつつ週末のみの大部屋俳優を続け、90年代の終わりに上京、「平成Vシネマで最も多く死んだ男」の異名をとり、2016年のNHK朝ドラ『べっぴんさん』で広く顔をしられるようになった俳優さんだ。
ドンペイさんの情熱と波乱の人生はWikipediaでもなぞることができるが、オリジナルのドンペイOFFICIAL WEB SITE)が抜群に楽しく読める。
サイト・メニュー【HISTORY】の『はい上がる人 わたしの歩跡』(2019年毎日新聞 滋賀版に週一で連載。全34回完結)、【COLUMN】の『俳優 ドンペイのコラムでござる』(2016年から開始、現在100回、継続中)など、“大部屋スピリッツ”横溢のコンテンツがとってもおもしろいのだ。

―この分野、喋り出したら止まらない。字数が大幅に膨らんじゃった。でも書き留めたい人はまだまだおられる。いずれ「斬られ役列伝:Part2」でもやろうかな……

※1:売却した車…製作費に充てられる額で売れる車って何だと気になっていたらNSXだった。SASARU movieというサイトの記事「キャプテン・ポップコーン、『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー」()に情報があった。NSXなら充てられる額になったろうね。

時代劇定番のロケ地として有名な、京都府南部を流れる木津川に架かる「流れ橋」、正式名称は「上津屋橋」(こうづやばし)。Photoshopで色相と彩度を調整、ちょっと寒々しい時代劇にあう色調になったお気に入りの一枚。