NHKのBSで4月から、2000年に放送された朝ドラ第63作『オードリー』が再放送されている。
その(たぶん)第10回の冒頭、いきなり『椿三十郎』の決闘シーンで始まった。
このシーン、当ブログ「続 ふるさとの映画館」で以下のように記述した“場内し~ん”のあのシーン。
__スクリーンに映っていたのは、白黒の時代劇。目つきの鋭い中級武士と髭面の浪人が睨み合ってる場面だった。
と、一瞬二人が刀を抜き、と思った刹那、武士の胸のあたりからドブッシューと血が盛大に吹き上がった。
場内声なし。おいらも呆然。
しばらくして、「これは、チャンバラやない。斬り合いや。」「えらいもん見てもうた。もう戻られへんっ」……どこへ戻るのかわからなかったけど、そんなふうに思ったのだった。
と、その時の館内の雰囲気、自分の衝撃をできるだけ正確に伝えたいと、息を詰めて作文したあのシーンである。
それが、再現フィルムのように朝ドラの中で“再現”されていた。
ドラマ世界の映画館で『椿三十郎』(黒澤明監督作)が上映されていて、血しぶく画面に観客一同呆然とする、その中には(出演してるから当然なんだけど)名優・藤山直美もあんぐりと口を開けている――贅沢な(笑い)再現フィルムだった。
三十郎以後、血しぶかない時代劇は衰退をたどったこと、各社各様の対応策――大映は雷蔵の『眠狂四郎』『忍びの者』勝新の『座頭市』、東映は時代劇フォーマットはそのままに、健さんと鶴田浩二の「任侠映画」シリーズを生み出したこと、さらにテレビ時代劇『三匹の侍』にも言及、リアルな殺陣すら映画の専有物にできずテレビに持って行かれ、観客の激減に歯止めがかけられなかった映画界の当時の情況が、3分ほどで描かれた。
『オードリー』の主人公は、昭和28年生まれという設定。筆者より2つ下である。
どうりでこの作品に漂うエエとことどうしようないイヤなとこ、両方に親近感・既視感を抱くのはその辺りのナジミにあるのかもしれないね。
都会と田舎の差こそあれ、ドラマの中と同じような日本人が暮らしていたあの頃、1960年から80年頃までがどうやら自分の思っている昭和という時代のような気がしてきた……