虫プロダクション、TVアニメ始める

今日という日、明日からは歴史的な日として記録されることを十二分に認識していた小学5年生の少年、つまり61年前の私は、誰に伝えるというものではないけれど、そのことを迎えるにあたり、自分なりのきちっとした迎え方をしよう、大袈裟にいっちゃうと、身を清め居住まいを正し、最高の礼を持ってその時を迎えようと考えた。ほとんど自己流の禊(ミソギ)である。

禊もどきだから、体を清めたというプロセスを経過するだけの自己陶酔イベント。
川や海に入って身を清めるのでなく、夕刻に入浴、それも内風呂はなかったので、銭湯へ出かけて体を洗って出てきただけのこと、ぜんぜん禊になってないのがご愛嬌。

帰宅後、この年、ようやくわが家にやってきた白黒のテレビジョンの前に正座して座った。
テレビは、狭い和室の壁面に沿って置かれた少し背の高い食器棚のようなサイドボードのようなものの上に置かれており、小学生が正座して座ると、背の高い仏壇を見上げるようなあんばいだった。

午後6時15分になり、タラララ、ララララ~♪と主題曲が始まると同時に、モヨモヨモヨモヨと背景パターンが動き、主人公の顔が現れ、おぉ始まった!とおもっている間に、もう少年ロボットは空を飛び、続いてタイトルロゴがつんのめるように入ってきて重なり、番組は始まった。

日本初の1話30分の本格的連続TVアニメにして、初の国産ロボットアニメ、『鉄腕アトム』が始まった瞬間だった。

と、ここまでは自分がいかにマンガやアニメーションが好きであるか、それもズ~ッと昔から…を話す時に、必ず使ってきたいわばネタのような話。
ところが、あらためてWikipediaで確認をしたところ、???!!!となった。
『鉄腕アトム』の放映開始は1963年1月1日 とあったのだ。

当時(昭和38年)、大阪府の銭湯、元日は営業していなかったはず。では、
①この記憶、別の日・別番組のもの?
②いやいや禊もどきに登場した銭湯は平素通っていた「K温泉」のとは別の「I」という名のお風呂屋さん。だから元日営業していた「I」湯に行ったのではないか? だったら元日で間違いない。
③こんなメンタルマネージメントを決行してまでひとつのテレビ番組を迎えること、人生でそうそうないはず。それだけの期待を持って臨んだ番組、次の機会は7年後、1970年4月『あしたのジョー』までないはずだ。記憶のすり変わりが起こるわけがない。
等々、切りがない。で、この問題の詮索は停止。これから先もず〜とね。

__瞬く間に30分が経過した。
「これから毎週、これが観れるんや」
忘我の状態から脱し、最初に思ったことは、それだった。

それから10か月後、同年10月、同じフジテレビ系で『鉄人28号』(制作:TCJ)が始まり、11月の頭にはTBS系で『エイトマン』(制作:TCJ)、25日にはNET系で『狼少年ケン』(制作:東映動画)が始まった。
でも、この日のように震えるような気持ちで迎えることはなかった。

『鉄腕アトム』。制作は虫プロダクション、第1話の演出は手塚治虫。
以後1966年12月31日の最終回まで、全193話が放映された。

「虫プロダクション」。
この響き、奇跡のクリエイター集団の名称として、尊敬と憧れとそして懐かしさを伴って、今だに私の身中で響いている。

1963年1月1日 、日本のTVアニメの奔流のような歴史は、この日の大きい角丸の14インチの白黒ブラウン管テレビの中から始まったのだ。

phxcoyotes_097によるPixabayからの画像