『SF入門』 10代で読んだ最も字数の多い一冊 …かも

おそらくだけど、マンガしか読まなかった少年であった私が、10代という脳細胞が一番活発に活動する時期に読んだ活字だらけの本の中でもっとも文字量が多かったのが、福島正実 編・著の『SF入門』じゃないかと思う。
同書の奥付を見ると、昭和40(1965)年5月31日初版発行、発行元は早川書房、とある。
65年といえば、私は中学二年生。石森章太郎の『マンガ家入門』『続・マンガ家入門』に耽溺していた頃で、文字だけの本もちっとは読めるようになっていた頃だ。
石森先生の影響もあって、初版とはいわないまでも2版か3版を買ったんだろうね。

その『SF入門』、日本におけるScience Fictionの入門書として、超有名な古典書だよね。
その内容は、まさにこれ一冊でSFが解るという充実ぶりで、1章:SFの定義をめぐって、2章:SFの歴史、3章:SFしんぼじゅうむ、4章:SFかりきゅらむ、5章:SFをどう書くか、6章:SF用語事典…と満腹以上のものだった。

4章の「SFかりきゅらむ」だけをとっても、SFマーケット・SFコンヴェンション・SF映画展望・SF漫画・SFの英雄たち・SFのベムたち・SFにあらわれる武器・SFにあらわれる宇宙船・SFとESP (超能力)・宇宙人類学・タイムトラベル・時間旅行調査委員会報告・ロボット物語・ファンダム、と親切そのもの。まさにSF全分野・サブジャンル総まくりの充実ぶりだ。

でも、出版されたのは60年代半ば、故にまだ「サイバーパンク」といったジャンルは立っていない。
ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー(Neuromancer)』や、士郎正宗の『攻殻機動隊』の出現はまだまだこれから、マーケットの成長やファンの成熟があってこそ、あと20年ほど後のことだ。

私が繰り返し読んだのは、6章:SF用語事典。
各項目の解説文を読み、SFのディテールと全貌を知ったつもりになったものだった。
ベムとはBig Eyed Monster=大目玉の怪物のこと(※1)、サイコキネシスとテレキネシスはほとんど同義語、ESPとはExtrasensory perception=超感覚的知覚のことやねんとか、丸暗記するのが楽しかった。

さらに付録として、「SF読書の手引き」が掲載されていて、SF学習にも事欠かない―読書が苦痛でなければだけど―のであった。
微にも入るし、痒いところにも手が差し伸べられていて、誠に親切な一巻本なのだ。

カバー装画は、当時のSF系No. 1イラストレーターであった真鍋博さん、真鍋さんは中面の各章の扉のカットも担当されている。
スタジオぬえのリアルでカッチョいいイラストが出現し、“SFアート”といった言葉が流布する10年ぐらい前の話だよ。

テキストもイラストも、これ一冊でSFの魅力を日本中に伝えよう、広めようという熱い一冊なのであった。

同著は80年代頃にその役目を終えたようで、現在では絶版のままである。

※1:ベム(BEM):ベム=Bug Eyed Monster=昆虫の目玉を持った怪物の略語という解説もあります。Wikipediaなんかはこちらを採用しているね。