ジブリと大菩薩峠と白土三平

2024年3月10日、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞・長編アニメーション賞に選ばれた。
3月の終わりか4月の頭、そろそろ鈴木敏夫氏のコメントがじっくり聞けるのではないかと、半年ほど開けてなかったiTunes(※1)を起動した。
目指すは、視聴リストの「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」。
定期購読にしてあるから、未視聴回の一覧から、’23年10月29日・11月5日にリリースされた、池澤夏樹さんがインタビュアーを務めている『ジブリをめぐる冒険』完結編(前・後編)を見つけ、面白く聴いた。(※2)

その後編の終わり近く、宮崎・鈴木両氏が敬愛する堀田善衛氏談義の後、鈴木さんの『大菩薩峠』好きに火がつき、話がそちらにジャンプした。

鈴木__堀田さんの書かれた大菩薩峠(論)これは、やはりおもしろかったです。(※3)
~中略~それ(大菩薩峠)が発表された当時、谷崎潤一郎をはじめ、本当にネ、純文学から大衆作家までいろんな人が大菩薩峠について書いているんです。それ(世評)を全部集めた本ってできないですかね。読んでみたいんです。
池澤__付録として原文もついてる(とか)…(笑)
~中略~
鈴木__どなたか書かれた本に一部紹介があるんですよ。全部集めてみるとどうなるか?
あの作者は、一体ね、そのひとたちに何を影響として与えたのかとか?
純文学の人がああいうものに目をつけた(というのは)なんだったのかな?
当時の庶民、民衆の気持ちをこの人は代弁したんだというのが雑に云っちゃうと(堀田さんの)答えなんですけどね。 それを説得ある形で書いてあるんで。
~中略~
池澤__中里介山って、後の時代なら(後継者は)、例えば、僕は、白土三平なんじゃないかなと思う。
鈴木__ほ~。
池澤__下からの革命。ひっくり返す。ひっかきまわす。
鈴木__白土三平が面白かったのは、百科事典買う前ですよね。百科事典買ってからつまんなくなっちゃった。史実に基づいたんで。
池澤__あ~、そうか。
鈴木__自由に書いてた方が面白かった。だからあきらかにね~『カムイ伝』より、『忍者武芸帳』のほうが面白かった。
池澤__そりゃそうだ。
鈴木__勉強しちゃうとね。(知識の)整理整頓ってむつかしいんじゃないですかね。
高畑・宮崎って、それこそ時代がそうだったんですけど、白土三平の影響が大きいですね。
おもしろい人ですよ。あの人も。
池澤__そう。 田中優子が白土三平論書いてるよね。(※4)

ジブリ・宮崎駿・鈴木敏夫~堀田善衛~中里介山/大菩薩峠~池澤夏樹~白土三平~ジブリ・高畑勲・宮崎駿~
故・堀田善衛さんと池澤夏樹さんの中継で、ジブリと中里介山と白土三平と’60年代が見事に循環した。

思惟の連環とは、本当に面白いものである。


[付記]
先の投稿「巨大山塊、白土三平」は、このポッドキャストを聴いたのがきっかけで書いたもの。いつかは書こうと思っていた「白土三平」だったけど、正直臆していて、お蔵入りを決め込んでいた。今回、蛮勇を奮い立たせて挑み、なんとか書き終えたものの、その後しばらくグッタリとしたことを記しておくよ。

※1:このアプリ、現在は、iTunesとは言わない。ポッドキャストだ。自宅のiMacは2015年製、ElCapitanで動いているベテラン機なのですよ。

※2:TOKYO-FM「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」『ジブリをめぐる冒険』完結編(後編)。出演:池澤夏樹さん、SWITCH編集長の新井敏記さん。取り上げた発言は、後半23分頃より始まる。ちなみに、このインタビューシリーズは、本年3月に単行本化されている。が、目次を見る限り「大菩薩峠談義」のくだりはなさそうである。

※3:『日本文化研究』第2巻(新潮社:1959年刊)。全7部(7分冊)構成のうちのひとつを堀田氏が執筆している。タイトルは『“大菩薩峠”とその周辺』。

※4:田中優子 著『カムイ伝講義』(ちくま文庫)のことと思われる。